ブラウン大学のママ教授が明かす「共働きが子どもの学力に影響を与える」説の真偽

エミリー・オスター [著], 鹿田昌美 [翻訳]

共働き家庭が増える中、母親の就労が子どもに与える影響について様々な議論がされています。従来、母親が働いている家庭の子どもはネガティブな影響を受けるというイメージが持たれてきました。しかしそれは本当なのでしょうか?

書籍『世界標準の子育て大全』では、ブラウン大学経済学者で自身も二児の母であるエミリー・オスターさんが最新の研究結果からデータを読み解いています。


※本稿は、 エミリー・オスター [著], 鹿田昌美 [翻訳]『ブラウン大学経済学者で二児の母が実証した 世界標準の子育て大全』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

母親が働いている家庭の子どもは、頭が悪い?

母親の就労とテストの得点について、2008年にカリフォルニアの研究者たちが、合計770の異なる影響を報告した68件の研究のデータを組み合わせたメタ分析を発表した(1)。

可能な限り多くの結果を組み合わせる試みから、研究者たちは、母親が仕事をしていることとテストの得点との間にごくわずかな正の相関関係があることを見出し、これを「r」と呼ばれる係数を使って報告した(2)。

これは影響の大きさの一般的な尺度であり、教育に関する研究では、r=0.1の値は小さい、r=0.3 は中程度、r=0.5以上の値は大きいと一般に考える。この研究では、rの値が0.001から0.05の範囲であることがわかった。つまり、通常「小さい」影響とみなされる値の半分未満だ。そして研究者たちの分析の多くにおいて、値はきわめてゼロに近かった。

2番めの発見は、影響には集団によっていくらかの違いがあるらしいということだ。

母親が働くことの影響は、裕福な家族をより多く含む研究ではわずかにマイナスの影響が大きく、貧しい家族をより多く含む研究ではわずかにプラスの影響があった。

同様に、より多くの有色人種とより多くの片親家族を含むサンプルでは、プラスの影響が多いようだった。また、女子のほうがプラスの影響が大きかった。これを額面通りに受け取ると、特定の集団(例えば、母親が高学歴)にとって、親の就労がマイナスの影響を与えることを意味する可能性がある。しかし極端な場合であっても、その影響は非常に小さい。

そして、個々の論文(例えばクリストファー・ラムという名前の経済学者による集団ごとのさまざまな影響を分離しようとする2008年の論文)を詳しく調べてみると、家庭環境の違いを調整するためにできることが増えれば増えるほど、影響が小さくなる(3)。

つまり、母親の就労のせいだと思われがちな小さな影響であっても、実際にはそれ以外の家庭環境の違いを反映している可能性があるということだ。

共働き家庭の子どもは、太っている

母親の就労がテストの得点に与える影響とは対照的に、親が働いていることが肥満に与える影響は、もっと一貫している。両親が共働きの場合、子どもの肥満のリスクが高くなるようなのだ(4)。

ただし、テストの得点の場合と同様に影響はかなり小さい。そしてテストの点数と同様に、高学歴の母親の子どものほうが、肥満の増加が大きくなるようだ(ただし、これは初期の体重が少ないためかもしれない(5)。

研究者は、”なぜ”このような肥満の影響が見られるのかを掘り下げようとするとき、子どもたちが学校以外の時間に何をしているかに焦点を当てる傾向がある。

結局のところ、肥満はさほど謎めいたことではなく、食べる量が増えて運動量が減れば、一般的な体重増加につながる。つまり、ここでの仕組みを探すことは、働く母親を持つ子どもたちが、より多くのカロリーを摂取しているのか、それともより少ないカロリーを消費しているのか(あるいはその両方)を把握することに要約されるということだ。

これは概念としてはシンプルだが、実際には多くのデータが必要になる。母親の就労や子どもの体重に関する情報だけでなく、子どもの時間の使い方(具体的には「運動をしているか否か」)や何を食べているかなどの情報も確認する必要があるのだ。幸いなことに、少なくとも一部のデータソースがこの課題に対処できる。

一例として、『ソーシャル・サイエンス&メディスン(Social Science & Medicine)』誌に掲載された2014年の論文について考えてみよう(6)。働く母親を持つ子どもが肥満になる可能性が高いことを、初めて示した論文だ。影響は中程度で、労働時間が0時間から40時間になると、肥満のリスクが約4%ポイント増加した(この研究では、平均して約20%の子どもが肥満だった)。

論文では、具体的な行動にも目を向けている。働く母親を持つ子どもたちは、野菜や果物の摂取量が少なく、ファストフードと炭酸飲料の摂取量と、テレビの視聴時間が増えていた。実際には、集団遊びのようなレクリエーション運動による運動量は増えているようだが、テレビの視聴時間が増えたことで、座っている時間の多いライフスタイルになった可能性がある。

学校外の過ごし方が、子どもの肥満度を決める

興味深い結果ではあるが、母親の就労との”因果関係”については証明されていないことに注意しよう。もし母親が家にいたら、子どもが同じことをしたかどうかは、私たちにはわからない。

このテーマに関する論文では、母親が子どもをスポーツに連れて行ったり、愛情を込めて家庭料理を準備したりする時間が減ったことから、関連性が生じていると推測されていることが多い(7)。

そうかもしれないが、実際に親の時間の使い方を見ると、働いている親が働いていない親に比べて、こういった活動に費やす時間が短いことは明らかではない(8)。そのため、働くことではなく、単純に各家族のそれ以外の違いが重要である可能性も依然として考えられるのだ。

つまり…何を意味するのか?

データには欠陥があることを考慮して、このエビデンスに決定的な因果関係がないことをはっきりさせておこう。相関関係が示唆されるも、2つの結果だけにすぎず、関心のある事柄のすべてを網羅しているわけではないのだ。

明らかなのは、子どもの学校外での過ごし方が多少は重要であるということだ。高収入の世帯のほうが、母親の就労が子どもにマイナスな影響を与えるらしいという結果は、そういった世帯では子どもが親と一緒にいるときに「豊かな」活動ができる可能性が高い、という解釈もできる。

だから「親が共働きをするべきではない」という意味ではなく、学校外の時間の過ごし方や食事の選択などは、しっかりと考えるべきことだと論じているのだ。要するに「慎重に考慮する」ことが大切なのだ。

たとえ私たちが、こういった影響のすべてを因果関係だと捉えたとしても、その影響は”非常に小さい”ことは確かだ。学業成績にはほとんど影響がなく、統計を厳密に調べたとしても、影響はごくわずかだ。肥満についてはやや大きいが、それでも子どもの体重に関わる他の要因とは比べものにならない。

[注釈]
(1) Goldberg, Wendy A., et al. “Maternal Employment and Children’sAchievement in Context: A Meta-analysis of Four Decades of Research.” Psychological Bulletin 134, no. 1 (2008): 77.
(2) これは R0 (コロナウイルスの流行中によく耳にしたかもしれない)。相関関係を表す小さな r にすぎない。
(3) Ruhm, Christopher J. “Maternal Employment and Adolescent Development.” Labour Economics 15, no. 5 (2008): 958–83.
(4) Morrissey, Taryn W., Rachel E. Dunifon, and Ariel Kalil. “Maternal Employment, Work Schedules, and Children’s Body Mass Index.” Child Development 82, no. 1 (2011): 66–81; Ruhm. “Maternal Employment and Adolescent Development.” 958–83.
(5) Ruhm. “Maternal Employment and Adolescent Development.” 958–83.
(6) Datar, Ashlesha, Nancy Nicosia, and Victoria Shier. “Maternal Work and Children’s Diet, Activity, and Obesity.” Social Science & Medicine 107 (2014):196–204.
(7) Morrissey, Dunifon, and Kalil. “Maternal Employment, Work Schedules, and Children’s Body Mass Index.” 66–81.
(8) Hsin, Amy, and Christina Felfe. “When Does Time Matter? Maternal Employment, Children’s Time with Parents, and Child Development.” Demography 51, no. 5 (2014): 1867–94.

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